谷津田の景観を取り込む住まい
里山は、植物を栽培する場所である「ノラ」に対して、植物などの自然資源を採集する場所である「ヤマ」を示す言葉として使われます。雑木林や竹藪などの林、茅場や採草地なとの草地、ため池や谷津田(台地と低地をつなぐ小河川の谷沿いに造られた水田)、それらを結ぶ用水や水路、水田や畑など、多様な環境が、モザイク模様のように組み合わされています。
千葉県北部の下総台地は、平坦地と浸食によって生まれた谷津とで構成されますが、この家の建つ環境はまさに里山の中にあります。江川沿いに広がる谷津田を、斜面地の農家屋敷と雑木が取り囲む周辺は、とても静かで四季の変化が美しい土地です。建て主は、この地の一軒の農家の土地と建物を購入し、2011年から家づくりを始めました。
始め既存主屋の改修も検討しましたが断念し、屋根瓦のみ降ろして外構工事で利用しました。平坦地は200坪ほどあり、西側に谷津田を見下ろす方向に部屋を並べ、南・東・北側の斜面林からの日当たりを良くする為に高床としてあります。玄関土間から、浴室窓から、居間や寝室から、光と風と景色を感じながら生活しているそうです。
2016年からは、物置兼薪小屋を建てる工事が始まりました。古材の松梁を使い、焼き杉を張った小さな小屋が完成し、主屋に並んで山懐に納まっています。斜面地を削った農家宅地の上に建てので、谷津田沿いの下の道路から建物は見えません。駅からわずか10分の距離に有りながら、喧噪とは無縁の環境となっています。
成田空港で航空機の整備を仕事にしている建て主は、敷地を選び、家を職方とつくり、まわりの樹木を管理する暮らしを送っています。薪ストーブの薪を確保するために周辺の農家を訪ねれば、「帰りに野菜もってけ」と言われ、子どもを通しての付き合いも広がっているようです。いずれ、地域全員で管理する谷津田を担う一員になっていくはずです。