坪庭のある家

温度むらをなくした室内空間

『三代もつ木の家を直営でつくる』という拙著(平山友子・岡部知子と共著)を読んだ建て主から設計依頼を受けた仕事です。同区内在住・地元公立高校卒業・同学年という条件は、価値観の共通点も多い反面、関係性の垣根も低いので互いの反応に遠慮がなくなり、防具なしで続ける真剣勝負のようでした。結果は、長く付き合える友人同士となれたので、良かったです。

間口が狭くて南北に長い南道路付敷地で、東西と北に隣家が接近している敷地は、都内ではごく普通に見られるものです。車2台駐車可、子ども達が出て行った後の部屋は外国人を受け入れるシェアハウス希望と、要望は明快です。これまでの経験から、南北の間に中庭的な外空間を設け、南側を低くすることで北側1階奥まで直射光が到達するプランを提案しました。

設計途中で、家のどこも温度ムラのない室内を実現するために、集中管理方式の換気扇を採用してほしいとの依頼がありました。熱交換機能を備えた大型の換気扇から、排気と吸気用の長いダクトを家中に回すことで、全体の室温を揃えるという方式です。そもそも土壁・木製建具は微細な隙間からの換気機能があり、真壁の家には馴染まないとお断りしました。しかし、メーカーからの見積もり書を何度も取った上で結果を細かく私に説明する建て主の熱意に沿うことに決め、天井を張ってダクトを通す設計に改め、工事を進めました。

竣工間際の3月11日に東日本大震災が起こり、時間停電生活を経験することで、電気に頼り過ぎる生活を見直すことが求められた時期です。南からの直射光と、薪ストーブの圧倒的火力があって暖かい家となりました。さらに、採用した集中管理方式の給排気換気扇も併用することで、無暖房の洗面所・便所なども室温が下がらないことが、確認できています。

時折、家の庭で薪割り作業をしている姿を見受けますが、省エネ・省資源と健康の為にも、薪ストーブ生活を続けていってほしいものです。

南側の駐車場と建物の間は、栗太鼓柱バーナー焼き仕上げ曲面建込
玄関下駄箱(左側)とコート収納(右側)
広間南側の木製ガラス戸。外側に木製雨戸と網戸。内側に障子の構成
南側平屋屋根越に冬の太陽光が部屋奥まで届く。
ペレット薪兼用ストーブ廻りは平瓦張り。その後薪ストーブと交換した。
1階畳の間。広間との間の襖は壁に引き込み。
1階畳の間から見る坪庭。南側の玄関壁が見える。
2階へ上がる階段。壁を設けずに広さ感じる納まり。
2階中央部の吹き抜け。南側窓から1階奥に直射光が届く。
南側平屋部分と2階との間に設けた物干し場。道路から洗濯物が見えない。
工事前の既存建物の様子。塀の大谷石材は解体して玄関アプローチに再利用した。
加工場で赤松に柿渋を塗る作業
(建て主作業を標準としている)
外壁の焼杉板制作作業
(建て主作業を標準としている)
建物妻壁の竹小舞下地。荒壁付けを始める前に見える一瞬の美しい工程。

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