記憶に残る素材と家形
建設用地に初めて案内される瞬間は、その場所がどんな可能性を持っているのか考える始まりであり、たいてい心躍るものです。首都圏では平均的な30坪という敷地ですが、南西の門地でやや平行四辺形という地型が、家形を決めてくれました。要求事項を吟味した結果、住宅開発地の中に位置するので採光条件から日常生活は2階へ、2階には洗濯物の干せる広いデッキ、1階の寝室や浴室と道路の間に格子壁の設置、南西敷地角にシンボルツリーと植栽、塀沿いに駐車場等の計画を提案しました。
最初の平面と外形スケッチがそのまま承認され、実施設計につなげることができた事例です。この家の特徴は、敷地に合わせた台形状の2階建ての建物周囲を、ゆるくカーブして設置した列柱です。製材所に残ったサワラ丸太の先端を太鼓に落とした4mの材をバーナーで炭化させ、コンクリート基礎にボルトで固定し、上部を曲げた鉄金で補強した構造です。風と明かりは通すが、視線と人や動物の侵入を防ぐ為に詰めて立てて繋ぎました。
住宅地の角にあり、炭化させた列柱の黒、外壁漆喰の白、真壁の構造材の素木などの建築と、ヤマボウシの緑が創り出す街の景観は、新鮮な驚きで受け止められたようです。15年過ぎて、一部改修の為に再び手を入れましたが、大きくなったシンボルツリーは、大事な街の景観要素として承認されています。