宝形屋根の家

薪ストーブは家族の生活の中心

2011年3月11日に起きた東日本大震災は、地震や津波による建築被害と同時に、原子力発電に依存した生活そのものを再考する大きなきっかけとなりました。国内の全ての原子力発電所の稼働が停止し、時間帯を区切っての停電生活を受け入れる過程で、オール電化生活がいかにもろい基盤の上に成立していたかを知ることになりました。結果として、エネルギー使用の有り様を皆で考え、継続可能な環境意識という命題を共有していく時代が始まったわけです。

2011年の始めに現地を訪れて打合せを進めていく過程での経験は、この家の設計にも大きく影響しています。建て主の御主人は、都内のサッカースタジアムの芝生の管理を専業にしていることもあり、石油や電力に頼り過ぎない生活スタイルを望んでいました。暖房は薪ストーブでいくことを最初から考え、機種選定も自分で動いてくれました。

夫婦+子ども2名の為の個室も含めて、薪ストーブ1台で効率よく全館を温められないかと考え、設計を進めました。家の中央付近に薪ストーブを置き、吹き抜けを通して2階の部屋に暖気を誘導していく為に宝形(四角錘)の屋根形として、2階中央に部屋を設け、屋内の熱循環をよくする目的で無双窓(連結引戸開閉装置)を多用しました。2013年2月22日の温湿度測定結果では、朝6時の外気温が-3度である時、ストーブ着火前の1階広間の室温は+16度となっています。70mm厚の土壁の蓄熱作用が良い結果となっているようです。

薪ストーブは、燃料にする薪の確保と保存、灰の処分、煙突掃除などの苦労も伴いますが、ゆらゆら揺れる炎を眺めているだけで気持ちが落ち着きます。テレビがなくても、家族全員を引き付ける力があります。維持管理を続ける姿が、この家で育つ後の世代に、きっと良い影響を残していくことになると思います。

南西側建物全景。簓子下見板張り漆喰塗り真壁。木曽石組階段
広間と茶の間。床はサワラ厚板張り。壁天井は漆喰塗り。
広間から南の庭ら見る。部屋の奥まで冬の太陽光が良く差し暖かい。
4畳半の広さの土間。ストーブ下のタイルに蓄熱させる。
ストーブの煙突の熱を2階に伝えるための大きな吹き抜け。
1階畳敷の間と板張りの広間。茶の間は40cm高くしてある。
2階寝室。1階吹き抜けに向けて大きく開けた窓から暖気を取り込む。
2階寝室上部の小屋組と野地。隅木と登り梁は蕪束に集まり緊結される。
上棟時の軸組・床組・小屋組。土台の栗以外は全て西川材使用
上棟式の前に行った祝い餅撒きの振る舞い。

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