街のオアシスとなる診療所付住まい
お会いしてから数年越しの再会後、駅に近く、閑静な住宅地が広がる一画、ソメイヨシノの巨木が残る建設用地に案内されました。無計画に増改築を繰り返してきた結果でしょう、桜以外は景観的に負の遺産と言っても良い環境でした。一方、建て主の語った要求は実に明快でした。
- 数世代もつ長寿命の家とすること
- 地震に対して壊れにくい構造とすること
- 全ての使用材料は可能な限り自然素材とすること
- 外国人が見ても日本文化の良さを感じられる建築とすること
- 住み手がいなくなる状況になった際は、土地ごと文化財として国に寄贈すると決めている
私自身、常に追い求めてきた建築の有り様を、建て主の言葉として聞けたことは嬉しい限りでした。敷地は100坪と広くて平坦、角地で道路付は良い、南側は区の駐輪場で日当たりは良い。3家族別玄関+診療所+駐車場+桜の木をまとめるという難題です。ただ、複雑な要求事項が重なる計画は、それぞれの関係性を整理することでまとめやすい一面もあります。模型と共に提案した計画内容はほぼそのまま受け入れられ、数十枚の説明用内観パースが家族全員のイメージを膨らませていきました。
1年間に渡った工事が終了し、満開のソメイヨシノをそれぞれの部屋から眺めることができました。足を止めて眺めていく人もいると聞きます。診療所は看板を出していませんが、建物が目印になって人か寄ってくれるそうです。そして何より、2階に住む若夫婦に後継ぎもできたことが、この建築に関わったことをより嬉しい結果にしてくれました。